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東京高等裁判所 平成元年(ネ)1066号 判決 1989年7月19日

控訴人 甲野太郎

被控訴人 千葉県

右代表者知事 沼田武

右訴訟代理人弁護士 吉原大吉

右指定代理人 山本文夫

<ほか一名>

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の申立て

一  控訴人

「原判決を取り消す。被控訴人は、控訴人に対し金四万四一〇〇円及びこれに対する昭和六二年九月六日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求める。

二  被控訴人

主文同旨の判決を求める。

第二当事者の主張

原判決事実摘示のとおりであるから、これをここに引用する。

第三証拠関係《省略》

理由

一  当裁判所も控訴人の本訴請求を棄却した原判決は正当であって、本件控訴は理由がないと判断する。その理由は次のとおり加え、訂正するほか、原判決理由のとおりであるから、これをここに引用する。

1  原判決九枚目表三行目の「尋問の結果」の次に「と弁論の全趣旨」を加える。

2  同一〇枚目裏四行目の次に、行をかえて次のとおり加える。

「2 ところで、学校教育法三五条は、中学校は、小学校における教育の基礎の上に、心身の発達に応じて、中等普通教育を施すことを目的とする、と定め、同法三六条は、より具体的に右の目的を実現するために中学校教育の達成すべき努力目標を定めている。そして、中学校に在学する生徒は、おおむね満一二才から満一五才の間の未成年者であり(同法三九条参照)、その心身の発達は、程度において個人差はあっても、いまだ未成熟であることはいうまでもない。したがって、学校長が、教育目的を達成するための一助として右のような未成熟な中学校在学の生徒のために、その広い裁量のもとに、教育的観点からする教育上ないしは指導上の指針あるいはあるべき行動の基準等について生徒心得等を定めてこれを明らかにすることは、それが社会の通念に照らして著しく合理性を欠くなど不適当、不適正なものでない限り、何ら違法ではなく、また、不当なことでもない。このことは、それが、生徒の着用するいわゆる制服についての場合であっても同様である。

これを本件についてみるに、前記認定の事実が認められるほか、《証拠省略》によれば大原中校長の定めた生徒心得における制服の指定は、生徒の教育上遵守することが望ましい項目について生活指導ないしは学習指導のための教育活動の一環として、いわばその努力目標を提示する趣旨のもとに、社会的合理性のある範囲内で定められており、その具体的な運用に当たっても、父母や生徒の意見をも十分に取り入れるよう配慮し、仮に制服を着用しない生徒があっても、これを着用することが望ましい旨指導することはあるが、制裁的な処置をとるようなことはなされていないこと、この状況は、右の、生徒心得が定められた昭和五一年以後一貫して今日に至っており、通学区域内の同中学校の生徒の父母である付近の住民からの格別の苦情もなく経過してきていること、そして同中学校の在学生は前記の甲野春子をも含めて、全員が制服を着用して学校生活を平穏に営みつつ入学、卒業に至っている(甲野春子は前記転校まで着用)ことが認められ、右認定を左右すべき証拠はない。」

3  同一〇枚目裏五行目から同一一枚目末行までの全部を次のとおり改める。

「3 以上に認定の事実関係によれば、大原中の生徒心得における制服についての定めの内容は、中学校に在学すべき生徒に対する教育上の配慮に沿うものとして、社会通念に照らし合理的であるというべく、教育的見地からする学校長の裁量を超えるものではないし、あるいはまたその裁量の範囲を逸脱する類のものでもないことが明らかである。更に右定めに関する運用の実態をみても規制的、強制的、拘束的色彩の薄いものであるということができる。しかも、甲野春子本人もその母も制服の着用を望んでおり、控訴人もその希望をいれて、同中学校の制服を注文購入したのであるから、控訴人の内心に不本意な点があったかどうかは別として、学校当局の強制で制服を購入させられたとか、校長から購入を強いられたとか、校長が甲野春子の制服着用を控訴人に強制したものとはいえない。控訴人の右の点に付いての主張は採用できない。

なお、控訴人は、大原中校長が指定制服の着用を強制したと主張し、右の着用の強制は、憲法及び教育基本法に違反している旨主張するが、同校長が控訴人に対してあるいは甲野春子に対して同校の制服着用を強制したものと認め得ないことは以上までに認定、判示したとおりであるから、控訴人の右主張はその前提を欠くものであって、到底採用できない。(なお、前記認定のとおりの大原中学の生徒心得における制服についての定め及びその運用の実情が、憲法・教育基本法に違反するものとすべき事実関係を肯認するに足りる証拠は何ら存しない。)

4  そうすると、大原中校長に控訴人主張の違法行為はないのであるから右の点についての控訴人の主張は理由がない。」

二  以上のとおりであるから、控訴人の本訴損害賠償の請求を棄却した、原判決は正当であって、本件控訴は理由がない。

よって、本件控訴を失当として棄却し、控訴費用は控訴人の負担として、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田尾桃二 裁判官 仙田富士夫 市川賴明)

<以下省略>

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